よをまたぐ。
青木怜二

物語を終えて、影ばかりが白く、うつし身より抜けて落ちる。うなだれ歩む私に踏まれ、足跡が明るく、目眩がする。

(あれは何時のこと、砂利の上に転がる私の首が波に洗われている。薄曇りの空には天女様がいて、その手にある石は泣いてるように光ってた)

Lucy(in the sky with diamonds.)――褐色の、始祖の女の名が、漏れる。路上、寝ぼけまなこで歩く午前四時、Walkmanからヘッドフォンへ流れる音の波だ。

(鞄のなかに敷き詰めた、もう使わないエプロンと、これから使う参考書。私の魂は既に、今生の在り方
を定めつつあり……)

漏れる、私秘にも。分かたれた私/たちの声が、血の底の、声が。きっと、あるから。
街の名をまたぐように、物語をまたいで。いつか、私の名をまたいで、次の名を歩くときまで。

白む空、うつし身に新しい影が伸びて、黒く。記す一行めの初々しさよ。


自由詩 よをまたぐ。 Copyright 青木怜二 2017-02-04 05:00:55
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