キルト
ゼロハチ

こころの中に
たくさんのものを隠して

おとな、というものになる

たくさんの名前に埋もれて擦り切れながら

わたしは柔らかく小さい手だったことを思い出す


つみ木とスプーン

あたたかい陽だまり


あなた


よく笑う、ということを

わたしはあなたから教えてもらった



つらかったでしょう、そう言われたとき


たしかに雨が降っていたと思います


映画をみながら

わたしは、さめざめと泣いた


言葉はとても心臓を痛くした


おとなだからと言っていたけれど

わたしは自分が思うほど強くはなかった

泣いた、泣いてしまった
声さえも押し殺してしまったままで
好きなものやきれいなものが

なんだかよく、わからなくなってしまった



傷んでしまった、からだを撫でて


もう一度、海を見に行きましょう


生まれてきて、奪い去って、月も太陽も飲み込んで

またつぎの誰かが幸せな朝を迎えられるように


わたしたちは毎日、自分を切り離していく

声が出なくなったことにも気づかずに
ただ、一生懸命に

誰かが縫い合わせた布きれのように

波間に漂うものになるまで



海はただそこに在るだけで愛だから


わたしは海が好きなのだと思う


赦してほしかったことは何だったのだろう
本当は歌うこともできたのに


わたしは小さなわたしのままで生きていく

今はそれを、願うことしかできないけれど


できるなら今度は


ひとつの幸福を祈るものになりたい




自由詩 キルト Copyright ゼロハチ 2017-01-26 22:43:43
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