夜毎の蝶
石瀬琳々

誰も知らない そんな夜、


少女のぽっちり開いたくちから一羽の蝶が
それはすみれいろの 夢見るひとのうすい涙のような
蝶が飛んでいった 音もなく


(恍惚めいた ひみつの儀式)


少女はそんなふうに夜毎に蝶を吐き出した 
目覚めることのない眠りに包まれて 
朝も昼もあどけない瞳を閉じたまま


(まるであえかな人形のよう です)


蝶は窓の向こうで燃え上がり夜明けとなった
羽根の向こうに知らないくにがある
行きたくて
指をのばしてつかまえたくて
そこですべて燃えてしまう前に


蝶は花のように燃え上がり夜明けとなった
たくさんの色彩が奏でる音楽のような
けれど一瞬で消えてしまう美しいもののいのち


(その一瞬に 確かにある永遠を)


羽根の向こうの知らないくにを
きっとすみれいろから黄金色に燃えるそのくにを
夢のまた夢に見ている


(わたしのなかに眠っている ひみつの少女)


いつか少女を揺り起こしてそのかぼそい手を握り
窓を越えて飛んでいくだろう
たくさんの蝶が形作る夜明けのその羽根の向こう


心は (たましいは)


燃え上がり ひとつの炎となる




自由詩 夜毎の蝶 Copyright 石瀬琳々 2017-01-25 20:33:02
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