悔恨
ヒヤシンス

 
 早朝の湖を歩くのは誰だ。
 湖畔の宿で耳を澄ませばそれは聞こえる。
 眠れない夜を超えて我が神経を研ぎ澄ます。
 苛立たしく窓を解き放つと、音の消えた足跡がくっきりと宙に浮かんでいる。
 得体の知れない恐れに胸がすくむ。

 傲慢にして怠惰、数えきれない悪癖を塗りたくる絵画はこれだ。
 岸辺に浮かぶ足跡は喪を纏ってしかめつらしい。
 湖底から湖面を貫く木々の梢にカラスが一羽、私を見つめている。
 魂を射抜かれた私は、突然吐き気に襲われた。
 悲しみではない涙が両の目から溢れ出た。

 不気味な絵画の調べはこの朝に限ったことではない。
 絵画よ、私を許せ。
 足跡よ、私に付いてくるな。
 カラスよ、私を見つめるな。
 あらゆる行いよ、迸る涙を深紅に染めてくれるな。

 都会から離れ、どこの土地にいようとも自分から逃れることは出来ない。
 記憶は日々刻まれてゆく。
 私という彫刻が燃えて無くなるその日まで。
 湖畔の朝よ、今日は太陽が出ないみたいだ。
 ならば帰ろう。足跡だけをその場に残して。


自由詩 悔恨 Copyright ヒヤシンス 2017-01-22 05:17:30
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