闇夜
アンテ


街のはずれで老いた女が営む店は
闇色の菓子がたいそうな評判だったが
だれ一人材料や製法を知らなかった
ある時店が閉まったあとも
客の一人が見張っていると
老いた女は夜更けを待ってふらりと出かけた
あとをつけると
老いた女は街の端までやってきて
暗闇を小さく切り取った
穴からは淡い光が漏れ出したが
縫ってふさぐともとの暗闇にもどった
老いた女が帰ったあと
男はさっそく暗闇を両手で抱えるほど切り取り
家に持ち帰って自慢した
たちまち噂が広がって
夜になると人々は街の端へ押し寄せ
我先にと暗闇を切り取ったので
街はすっかり明るくなった
人々は夜が来ないことに不平をもらしたが
よくよく考えると
眠りのさまたげになる程度の害しかなく
開き直って全部食べつくしてしまった
老いた女だけが騒ぎと無関係に
暗闇の欠片を庭の畑に植えて毎日世話をし
やがて畑じゅうに黒い花が咲き揃うと
花の種を収穫して街の端に植えた
すると夜空が低いところから暗くなりはじめ
ついには完全に暗闇がもどった
人々は無邪気に喜び
さすがに無計画に暗闇を切り取りはしなかったが
こっそり盗む人があとを断たなかった
老いた女だけが騒ぎと無関係に
昼間の空をほんの少し切り取って
畑に撒いて育てた
やがて庭じゅうに明るく輝く花が咲き揃うと
ひとつずつ取っては空に放ち
花は星になって闇を彩った
毎日星の並びが変わるので
人々は不思議がり
とびきり高い梯子で星を捕獲しようとしたところ
転倒して暗闇を引き裂いてしまった
すき間から差し込んだ光は
街はずれの家まで達し
軒先の容器にたっぷりと溜まった
人々がなんとか暗闇を修繕しおえた頃には
星々はひとつ残らず穴の外へ逃げ去って
夜はまたもとの暗闇にもどってしまった
老いた女だけが騒ぎと無関係に
容器の光を何日も何日もかき混ぜつづけ
やがて金色を放ちはじめると
手で掬い取って空へ放ち
光の塊は月になって夜の街を照らした
人々はそれでもまだ懲りずに
月を捕まえようと
あれこれと今日も策を練っている



自由詩 闇夜 Copyright アンテ 2003-11-14 21:29:17
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