懐かしくない / ある女の子篇
末下りょう
自分のことしか話せないなら死ねばいいと思うとき
世界はわたしと脱衣所だけになる
消せない電気と割れた洗面器
コーラ色した夜のコーラは夜より暗い
友達1000人できたらウザかった
みんなきっと1人1人なのに
でもそれって環境じゃなく世界だった
世界の不完全さを暴くだけの世界だった
世界を欠いた世界の肥大だった
みんなと違うが始まらないし分からない
わたしとわたしのあいだに居たわたしはもういない
それを秘密にしてるうちは誰にも負けれないと思った
まず風が吹いてほしい
この顔よりその表情が大事だってほんとなんだろか
4限国語の場面の支配から逃れるために
わざと教科書忘れて
隣の席の子ともっといろいろ話したい
そこから始めたりしたい
自分を好きじゃないなら誰も愛せないんじゃなくて誰も愛せないよな自分なら好きじゃない
言葉の起源は差別じゃなく信頼だきっと伝わるとあてもなく信じきること
壊れた光しか色彩を生めないとしても
学区とスクールカーストの明確な同調
みんな行きたくもないアビリーンに歩きだす
幸せな子なんてそこにいない
目的を見出だすには戦いのなかに身を置くしかない
学級崩壊した理科準備室で舐めたきみの膝の味は運動場に埋まる不発弾
ケツ顎のジョックたちは笑って紙コップを投げつけてくる
デトロイト化したわたしの学区の子たちが浴衣で花火大会に出向く夕焼けの列をみてた
色鮮やかに家族も見えなくなった
ジャージと仮病のマスクがわたしの戦闘モード
理屈じゃないものを浮かび上がらせるための理屈を掘りあてる
昼間の陽を浴びすぎた日没
塾でつかまえた火の虫が茜の雲に消えてく
友情のための友情なんかしらないしいらない
わたしははじめて逢うもののために生きて探しあてる
わたしは親殺しと子殺しと食人たちをよく知ってる
それはわたしが演じたいと思ってた役柄に役立つ
生まれ変われるなら雨女の少女か感度抜群の美少女にする
誰かが正しい答えを持って待ってるわけじゃないことくらい知ってる
セパレーションイニシエーションバンバンショットアッハザッハリヒ
SNS的理性が戦術に落ちぶれたものなら
わたしはそんなものしか知らないのかもしれない
ものが見えてる人がまだわたしには見えない
ほんとの闇は空間じゃなく永遠の脅威だと思う
血の色を揺りおこして
わたしは誰かのために生きたい
馬鹿げた車が悲鳴もなく薄っぺらな崖から落ちる
スピードで風を切り裂くには軟らかすぎる肌をさらして
潮と使者たちを弔う
迷宮が直線からいちばん遠いものと信じることがすでに直線の側の思考なら
始まりを示したい
始まるまえがないならたぶん始まりもない
勝手に示すだけなにも懐かしくないのに
二方向に越えながら線が尽きる
時が過ぎるというよりわたしが挑みながら過ぎ去る
ただ定規とコンパスと縦笛とスマホを駆使した地形学的ランドスコープで次の瞬間を見いだすまでこの瞬間を離れない
すべての時計が時限爆弾に見えたりするとき
わたしを赦さないことでわたしを冒涜してしまうとき
絶えず出直せるスタンスがきっと生を強調する
それは不可能みたいなものをつくってそこに可能性をみせてくれる
あとは最後の手品にわたしをもっと慣れさせればいい
自分の居場所と目標は自分を信じたときに生まれる
細工されたサイコロだろうが投げるまえは何よりも強く握る
世界がどっと哄笑に満ちてくために
音を鳴らしたいと思ったときにはもう鳴り響いてる
星と虫が土に還る砂のように墜落する光を掴み領土にする夜は風