借りてきたテコ / ある女の子篇
末下りょう

借りてきたテコを折らないよう
慎重にあてがって
押してみる

借りてきた猫が笑ってる
分厚い雨雲からくる雨粒が草木ではずんで賑やか
借りてきたテコじゃ動じない本日
濡れた髪が額にはりついて
落ち着きのなさを感じて
からだを左右に揺らして
腰に手を当てる

降りしきる雨粒のなかで波うつ海に
おもいでが溺れかけて
ぶるぶるっとくる
雨音のざわめきに濡れそぼつ
ペンキの剥げたオンボロ小屋の雨漏りが打ち鳴らす
紅茶のティン缶に貯めた朝のおどろかし
ブーツをぬいで底にたまった水を流したらあのひと思い出した

生きてるうちにひとりでおっきななにかをどうにかしようとするからどうしよもなくチビになる
あのひとそう言った


折れそうなテコはでも折れない
きゅうに飛び出して
後ろ足で耳をかく猫が濡れしぼんで
まなこ潤ましてる
気弱な友だちに借りたボタンをくちのなかで転がして
よだれがたまる
指がじんじんする

アルミの鍋をかぶって
ボロを着て
なにを拾ってどこにしまったかそのつど忘れるのもと思ったら
ふいに胸が熱くなる

だからやっぱり踏み出すことにする
一歩前にじゃなく
一歩横に

そしたら分厚い雨雲のすぐ横に
空の青がすりばち状に透き通ってくる
そうこうゆう断層でわたし雨に降られてダンスしたかった


自由詩 借りてきたテコ / ある女の子篇 Copyright 末下りょう 2017-01-18 01:25:44
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