嘆き
中原みのり


   嘆き


 恋に気づいてしまった、そのとき、私は死を思うのです。
 恋に落ちてしまったらば、もはや、死ぬしかないのです。

 貴方が好きだと知った瞬間、悲しくて、苦しくて、溺れていくような心持ちになりました。
 逃げ出したくて、認めたくなくて、幼子のようにただ涙をこぼしました。

 何も望んではいないのに、どうして好きになどなってしまったのでしょうか。
 隣で笑ってくれるならばそれでいいのに、どうして好きになどなってしまったのでしょうか。

 もうかつてのように、ただおしゃべりをすることも、並んで歩くこともできないのです。
 私は息絶えない限り、原動力を欲に乗り盗られ、この身を嫉妬で汚して生きるのです。

 弱虫の私には悲しみと穢れは重すぎました。
 臆病の私には歩む勇気はありませんでした。

 せめて彼の中の私が、いつかの私のままであるように、今の私は去らねばならぬのです。
 もう、私は戻れないのです。


自由詩 嘆き Copyright 中原みのり 2017-01-16 00:28:31
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