氷結
本田憲嵩

なにも書かれていない
紙の上から立ちのぼる
青白い砂漠
その雪原のただなかで
花にも瞼があることを教えてくれた人が
透明なグランドピアノを弾いてくれる
その滑らかな指のうごきで
雪のように白いキャンディーを降らせ
キャンディーのように白い乳房を降らせ
やわらかな乳房のように白い天使を降らせる
そのランプ台の透明な花瓶には一輪のあかい花が挿し込まれている
やがて悴んだ十本の指は氷結しながら
音楽もまた氷結する
月と星座は輝いたまま
氷の棺に閉じ込められた



自由詩 氷結 Copyright 本田憲嵩 2017-01-15 00:06:07
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