街の夢
うみこ
遠く
雲が広がっていた日の夜
街の夢を見た
夢の中で
亡霊のようなビル群は
薄く霞んでいた
雲の中で飽和状態になった雨が、
騒めきを連れてやって来そうな気配は、明け方、新聞配達員のバイクの音を、布団の中で聞いているような感覚に似ていた
やがて、薄紫色に染まった街の空は、新聞配達の連想とは無関係に、朝なのか昼なのかわからなくなっていた
ただ、ベランダに、あの空と同じような色をした花が一輪、咲いていたことを思い出した
透明な、空っぽの、光の底で生まれたような瓶を持って
ベランダの、一輪だけの、花を摘む
花の茎には、棘も、ささくれもない
弱々しい茎の先に
薄紫の花弁がある
空が、
同じような色をした手を広げていた
珍しいこともあるものだと
ぼんやり空を眺めている
いったいいつ、夢から覚めたのだろうか
問いかけても
街は答えない
誰も彼もしっかりと
目覚めているからだ