ただ、
水菜

凛と向いたその瞳は強く何かを訴えかけていて
硬く引き結んだ口元は何かに耐えるかのように震えている
上を向いた鼻先にさらりと掛かった黒髪をうるさそうにかき上げて
彼女は此方をきつく睨み上げる
そこに滲んでいるものは

たたき上げるような強い音が響いて
それがどこかの工場の音だったと気付いた時には
時は固まりしんと辺りを硬直させていて
窓の外から零れてくる
転んでしまった子供の泣き声を
聞くとはなしに聞いている

突き刺すような緊張は僕に感覚を見失わせて
ありもしない空想に逃げようと試みたりもする
僅かばかりのもがきは
何の効果もなく
僕はその事実に唯落胆する

その日、僕は、小さな友人の為にささやかな嘘を付いて

ひゅるりと何かが零れていくよう

小さな友人は、結局僕に最後までかばわれたままだったけれど
窓の外から零れてくる
転んでしまった子供の泣き声を
聞くとはなしに聞いている
突き刺すような緊張は僕に感覚を見失わせて
ありもしない空想に逃げようと試みたりもする
僅かばかりのもがきは
何の効果もなく
僕はその事実に唯落胆する


自由詩 ただ、 Copyright 水菜 2017-01-07 00:17:09
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