冬のハリネズミは 、
末下りょう



洗濯物の張り番をしながら
びしょびしょの灰色がかったそこで雪の降る夢をみた
バラと塩の匂いをさせて
それは夜風に舞った
どれもが冷たく優雅に
その場かぎりに花ひらく冬をかじった
クッカクッカと

夜明けまえ 清らかなものたちの白い息にまぎれ
手探りで ネズミはきみを追った
車輪や長靴の跡がつく 雪の足音
口にふくみ
植物に気づかれた哺乳類の寂しさのまま

コスモポリタンの雨傘は LEDのファンタスティックな街角で
肩を濡らしあって
赦しあう
ネズミの影を横切る華やかな往来
その爪のはじまりに
そっと夜明けの夜更けが紫に
青ざめて
かなしかったことなんて一度も
なんて まだ
一度も
紫はゆっくりと近づいてきていつのまにか消えているものすべて


黒い笑いのような蝶たちが
夜の果てからの風にゆれてる

踏まれたばかりの翅 落ちたハンカチーフ
水路のうえの凍える道路をたどり
冬の祭りに はいでたときかいだ
低い太陽の匂い
クッカクッカと

霜まみれでころがる空き瓶の底
泥の光沢の
そこにたまる透明さ ストリートビュー


ネズミは忘れないだろか
よく肥えたイナゴを食べてきみと生きた日々や
季節はずれの毛並みに きらめきながら積もった雪の匂いを




自由詩 冬のハリネズミは 、 Copyright 末下りょう 2017-01-04 03:05:23
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