逢えてよかったひとなんていない、とぼくは思ったんだ
ピッピ


恋とか、愛とか、人間関係とかじゃなく、
逢うということに、ぼくは退屈を感じていたのかもしれない





わたしも?



ときみが驚いた表情をした。それはそうだろう。
きみとの関係を、すべて否定しまったように聞こえてもおかしくない。


きみは、大きな勘違いをしているよ。
きみのことが好きか、嫌いかというのとは、まったく違うところにあるのさ。
みんな、きみも含めてみんな、ぼくに逢うと、いや、ぼくに逢わなくても、
なんらかの干渉をしてくる。ひとは干渉が好きなのさ。干渉されるのが嫌いなくせに。

でも…。

わかってるよ。


といって、ぼくは軽々しく、きみにキスをする。
たぶんそんなことをしたって、納得してくれるはずがない。
でも、やらないよりは、よっぽどいい。


きみが離れていっても、ぼくが困らないんじゃないかって、
たぶんきみはそう思ってるんだろう。それは、まちがってるよ。
ただ、どうして困るかが、きみと考えているのとは、少しちがっているかもしれない。
ぼくは、きっとひとりでも生きていけるよ。そして、きみもだ。
となりのタカさんとケイさんも、かかあ天下のパン屋のジミーも、みんな。
だけど、彼らは、相方を、ぼくにとってはきみを、失ってしまうことで、
世界がとても広くなってしまうんだ。要するに、余計な人に干渉される。
ひとは愛することで、世界をせまくしているんだよ。故意にね。

あら、それは、恋とかけているの?

そうだよ、よく気付いたね。恋は、故意に世界をせまくするために、
ひとが落ちなければいけないトラップなんだよ。そして、ひっかかったのがきみだ。

そうなんだ…。

もちろんトラップにひっかかったきみを食おうとか、そんなことは考えていないよ。
愛は必要なんだ。でも、それがいいとは思えなかったんだ。

ふうん…。

帰ろうか。

そうだね。


世界に誰もいなかったら、きみを失っても惜しくないんだろうか…。
きっときみに干渉されたくないために、やっぱりきみを愛するんだろう。
さよならが、夕日で薄くのばされていくころ、
ぼくらは別々の生物みたいに、接点もなくすぎさった。



自由詩 逢えてよかったひとなんていない、とぼくは思ったんだ Copyright ピッピ 2005-03-05 00:28:31
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