ぬめぬめ
ただのみきや

捨てられた枕木の朽ちた裏側
温かく湿った光の無い世界で
無数のイキモノが暮らしていた
姿は見えないが互いの蠢く気配を感じながら

ある日ひとりのナメクジとひとりのミミズが行き当り
互いの粘膜に触れてしまう
他人の感触は不快なもので
(~オマエ~ぬめぬめキモチわるいんだよ~)
(~オマエこそあっちいけよ~ぬるぬるヤロウが~)
真っ暗闇世のはなし
めっぽう目の悪い者たちのおはなしだ
相手も見えていなければ自分も見えていない
相手のぬるぬるは気になるが
自分のぬめぬめは気にならない
そんな二人のやりとりを黙って聞いていた
ダンゴムシもワラジムシもヤスデもムカデもアリも
ダニも そして他のミミズもナメクジも
それぞれ自分の営みを続けつつ――
(似た者同士だよなぁ……)なんて思いながら

――突然! 
天地がひっくり返り真夏の日差しが降って来た
ひとつの世界に今終りが訪れたのだ
「うあっ キモチわる―い! 」
数人の子供の顔がのぞき込んだ
木の枝で突き回しては 直ぐに飽きて 行ってしまう
足の多い者たちは逃げ遂せたが
件の二人は干物になった
ぬるぬるぬめぬめを失うと ほとんど何も無く……

残された死を齧りながら
(ぬるぬるぬめぬめでもいいのに……)
見えないほど小さな命が呟いた
…シナンダカラ……)




               《ぬめぬめ:2016年12月23日》












自由詩 ぬめぬめ Copyright ただのみきや 2016-12-28 19:35:06
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