右手物語
こん

綿ぼこりを握りしめていた
お乳を飲むときおっぱいを押した
初めの一歩バランスを取るために前にのばした
泥まんじゅうを作った
じゃんけんをした
桜吹雪のなか母の手に包まれた
ハナハトマメと書いた

ともだちを殴った
火事のなか弟の手を握った
錆びた釘に貫かれた
涙をぬぐった

自由自在に鉄板を曲げた
ハンダでやけどして水ぶくれが出来た
皮が厚くなり指が太くなった
油にまみれた
お猪口を持ちタバコをはさみパチンコをした

柔らかな曲線をなぞった
暖かな血潮を感じた

赤ん坊の頭をなでた
肩車をした
へんな猿の落書きを書いた
みかん箱と鉄屑でそりを作った
子の手を握り習字を教えた
見送るホームで小さく振った

プレス機につぶされて親指だけになった
血管が浮きしみだらけになった
骨に薄い皮がはりつくほど縮んだ
こどものためにとちり紙に1万円を包んだ

喉の管を取ろうとした

冷たくなって

焼かれて


もう


無い









自由詩 右手物語 Copyright こん 2003-11-14 08:55:21縦
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