陽気な二人
ただのみきや

風が歌わない日にわたしたちは何を聴こうか
再生し続けることで乾く色彩の体温
その沈黙まで指先で縋るように諦めながら
待っているどちらでもないひとつの結末を


インプットしてきたものが違うから
アウトプットするものも違う
わかりやすい言葉ほど要注意だ
疑う途端に爪先から沈んで往く厚みのない鏡の床


欺きとお人好しのタンゴ
あなたが憂いと苦痛を料理する間ひとり踊っていた
食卓には小さな花が咲くこともあり
わたしたちは目玉をでんぐり返し鮫のように歓喜した


至福は狂気互いを前にして真白い内側に溺れて往く
ペンキ缶の中へ落ちた蠅が一色の夢に飲まれるように
摩耗するほど触れながら
わたしの中のあなたもあなたの中のわたしも人形だった


かつて誰かが書いたことを書いている
補い合うようにバランスを取りながら
転び続けるそのために起き上がるのだろう
始めから寝転んでいた最後にも寝転ぶのだから


美しすぎるものを見るとわたしたちは死にたくなった
止まった時の中へ互いを埋葬し意識を塵にして
茫漠とした空白へ還るかのように
愛は幻想の広大な森に住まうひとひらの現実――生きた蝶


飛び去って世界は灰に世界は人の数だけある幻想だから
何度でも巻き戻されてクリスマスのように捏造されて
流行歌を囁きながら日陰と日向を往来する
集団は人でないほど薄められて崩落する甘く苦い砂粒


通り魔に魂ごと持って往かれるのを待って
気の抜けた液体の透明な静けさにあなたの
展開図を見ていた 咳込みながら神の言葉で舌を焼き
酷く陽気な二人だったと書かれない詩の中へ漕ぎ出して




               《陽気な二人:2016年12月21日》














自由詩 陽気な二人 Copyright ただのみきや 2016-12-21 21:55:58
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