名乗らぬ海の心音を聴く
もっぷ

そこを避けて着水しなくては/かなって夕日
の沈む頃に合わせるかのように操縦士だけの
小型機が落ちた/燃料は使い切るだけを飛行
したはずなのに静かに知られずに海で燃えて
/夜空への祈りのように最後、一瞬あざやか
に煌いたのち命を終える/操縦士もロザリオ
の胸元を気にしながら――それを現世での思
い出として次の世に(ゆくのだろうか)/そ
こ、彼が気にしていた多島海域は何事もなか
ったように翌朝を迎え一つの島の夏のこども
たちが石ころの道でロザリオを拾う/拾った
彼らには諍いや独占欲の概念がなく年上の子
から順番に十字架を掌で確かめる「何か聴こ
える」「何か聴こえる」手から手を廻りまた
年上の子の許にもどる/神妙になって場所を
選び――そのちいさな島でただ一本の樹の陰
でこどもたちは円座になり(こどもは七人居
た)弔うように――頭を垂れてほんのすこし
だけ泣いてみる/若い男の声の残像が色彩と
なって現れ(七色の)やがて昼食だと母親た
ちに呼ばれたからいったん誰かしらのポケッ
トにしまわれて潮騒――暗転――夜空、星と
星と(……かえりたい……)ポケットのなか
から聴こえるのは名乗らぬ海の心音だった/
再びの夕日の頃が訪れこどもたちは話し合い
を重ねた結論としてロザリオをビードロの瓶
に護らせて海へと「帰るんだね」(きっと)
「帰るんだね」というささやきと祝福とを添
えて――涯を悟る旅にロザリオはこの佳き日
に/かの操縦士はそれをどこかから見届けて
//未明にこどもたちの部屋を巡るものがあ
った、気配だけの訪問者はそっと彼ら一人一
人の枕元に四角い木箱を置きその上へ虹の輪
を架ける、木箱のなかの金平糖がさらにまば
ゆく在るようにと/こどもたちには魔法がか
かり、もう背丈はこの夜のまま誠実さもこの
夜のまま心の稚さもこの夜のまま/しあわせ
へと導くとは限らないのに、親たちの嘆きを
あらかじめ判っていながらも/深い眠りのな
かのこどもたちは目覚めて、まだ聴いていた



自由詩 名乗らぬ海の心音を聴く Copyright もっぷ 2016-12-09 00:30:15
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