ささくれ
あおい満月

本の頁を捲る度に、
髪をかきあげる度に、
引っかかる右手人差し指のささくれ。
ささくれの向こうには、
見たこともない懐かしい未来がある。



またひとつ、
母親に嘘をついた。
届いていたあの人からの手紙を、
届いていないと部屋の片隅に隠して。
その度にするするとささくれが、
増えていった。
未来が増えていった。
私の身体のなかの謎がまた増えていった

**

水に触れないのに、
風にさえ怯んでしまうのに、
おまえは液晶の上だと、
やけに元気だね。
私の喉の奥から、
奏でたい音を察知して、
おまえが奏でる声は、
いつも悲しいほどに、
私を満たしてしまう。

***

翌朝目を覚ましたら、
窓際の公園の水溜まりで、
右手の人差し指、
おまえが死んでいたよ。
まるで生きているみたいに、
鮮やかな桃色をして。
目だけが、黒々と白かった。
私の右手の人差し指は、
新しく生え変わっていて、
唇をくゆらして、
するりとさける準備をはじめている。
さあ、どんな嘘で、
どれだけの血が流れるのかな。



自由詩 ささくれ Copyright あおい満月 2016-12-07 21:21:51
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