終着の浜辺
岡部淳太郎
不幸な者が飢えるのは
あまりにも遠くを見すぎるためだ
降りそそぐ朝の洗礼に
われわれの首筋は鈍く痙攣する
釣り上げられた魚が
苦しげに未完の呼吸へ焦るように
われわれは前夜の遂げられなかったまぼろしの
残り香で寝床に
紙魚をつくる
海が聴こえる
その音は まだ遠いか
不安な夜にひとりで渇く
われわれはそれぞれにひとりである
月は空の片隅で濡れ
皿は割れて離れ離れになる
巡礼者は祈りをひとつずつ丁寧に
真綿で締め上げ微笑みながら歩き出す
われわれは今夜の未完の計画のために
凪の街角でそれぞれにふぶき始める
川が流れる
海までは まだ遠いか
不快な朝に星の影がまだ残る
われわれはそれぞれに港を持つ船である
誰もがひとりで急ぎながら
あるいは迷いながら向かってゆく
汀に沿って幽霊のように鴎が飛ぶ
この浜辺は忘れられた者たちの残骸でいっぱいだ
癒されない苦痛のために
われわれは帰ってゆくのか
歌が聞こえる
その声は まだ遠いか
(注)
本篇は、J・G・バラードの同名短編小説(原題「Terminal Beach」)
からタイトルを借用しました。中身の方での関連はありません。