苦い友
ただのみきや

目は口ほどにものを食う
飽くことはあっても満腹はない

痛みは正気
うかれた幸福感よりも

滾る大義の使命感
その他のことはすべて些末事

抑圧と束縛の中で
自由の価値を想う(実際のっぺらぼう)

宇宙的広さと無重力
感情の推力で自滅する者たち

飛ばされぬよう寄る辺を求め
自然と群れてルールができる

ほど良いやわらかさの拘束
ほど良い広さの囲い

「みんな一緒だよ」
「みんなそうなんだよ」

異分子 異端者 反抗者
村八分 追放 石打ち

とっくに絶望で構わないのに
希望は泡のよう 湧いて 弾けて

いっそ闇夜に包まれたいものの
微かな星灯りが 灯って 消えて

漆黒の天蓋の張りぼてを被っても
目打ちで穿つ誰かがいる!

希望とは目録だけのもの
実体には触れることはできない

触れれば希望は死ぬ
(もはや希望ではなく現実なのだから)

そして現実こそが絶望の母
飽くことなく孕む胎

絶望こそ我が母 我が祖国
希望だけが苦役へと誘う

希望の苦さを知りながら
幾度騙されたことだろう

消し去られてもまた現れる
殺されてもまた蘇る

人類は希望を抹殺できなかった
九十九パーセント絶望の世界でありながら

希望は腐れ縁の悪友
詐欺師でギャンブラー 夢見がちの詩人

勝つ見込みのない勝負へ
平気で人を巻き込んで往く

百パーセントの絶望に世界は辿り着けない
辿り着けば幕は閉じる静けさだけを残し

一パーセントの希望が生かし続ける
生き続けるのはつらいこと絶えず悩み疲れ戦って

見続けるだろう
聞き続けるだろう

絶望の 行き止まりの
堂々巡りの 諦めの

笑って「希望! 希望! 」
叫ぶ者は幸いだ

希望という性悪が持つ毒の苦さと痛みを知らない
つまりは希望を知らない絶望を知らないのだから

絶望は誘うだろう甘美な快楽へ
希望がもたらすものは労苦と犠牲

希望は鳥のように去る
残された者を抱擁するのは絶望

食うことだけで満足できず
遊ぶことだけで満足できず

船底のどこかから形而上学的浸水
なにかに帰依したり大義を見つけたり

壊して造ってまた壊して
新しい仮面をつけた古いことの繰り返し

なにも変わらないことを知り
老いを知り

絶望の母の乳房に縋りながら何処かへと去って往く
なのに最後まで心を弄りに希望はやって来る必ず




                     《苦い友:2016年11月26日》












自由詩 苦い友 Copyright ただのみきや 2016-11-26 21:06:43
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