『透明な花の一生』
葉月 祐




色の無い花が咲きました

香りも無ければ
命を繋ぐ力も持たない
少しだけ
孤独に見える花です


  花はただ
  『生きられたらそれで十分だ』と
  私につぶやきます


羽衣を思わせる
透明な花びらは
時折 陽の光を吸いこみ
透き通る細胞の隅々まで
黄金色を住まわせては

砂金のようなきらめきを
静かにその場に残していきます


  花は空を仰いだ後
  『ひとりは怖くないものだよ』と
  私を見つめ 囁きました


迷いの無いその姿や言葉に
私は気圧されてしまい
彼女から
目を離せなくなりました


無色透明の
時に忘れ去られそうになる
大多数の人々には映らない
この花は

ごく少数の人々の中には
確かな存在をくっきりと残す
少しだけ いいえ
かなり 不思議な花であり

その花びらを風に乗せ
女神のように微笑みながら
美しく優雅な舞いを
披露してみせるのです


そうしてまた
花は
人々の中に
その姿を残していきます

まるで
彼女を認識できる
数少ない人々の記憶の奥底で

ひっそりと
その命を紡いでいくように



  『もしも枯れても
      わたしはあなたの中で
         何度でも芽吹き 咲きましょう』



こうして
一切の色素を持たない透明な花は
いつまでも咲き誇り
生き続けていくのです


人々の心に
見えない種をまきながら
確かな生を紡いで
永遠に咲き続けていきます













                       2016/10/31/


自由詩 『透明な花の一生』 Copyright 葉月 祐 2016-11-16 17:32:51
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