午後と秘名
木立 悟
花のなかの
蜘蛛の影を吸い
水の螺子を巻く指が
静かに空をまさぐっている
まだらな闇
居るはずのない家族との約束
ところどころ見えない階段
現われては消える粉の窓
二重に回る火の橋が
霧の径を照らしている
天球儀に記された
詳細不明の公転軌
刃金づくり 作業場の煙
曇ひとつない暮れの遅さ
薄まる反射
濁る蒼と黒
首をかしげ
足の裏より狭い場所を旋回する
羽を持たないかたちの速さ
かたちを持たない姫の微笑み
目をふせたままの昼から午後へ
踊るものたちはすぎてゆく
虹が虹に 隠された名を呼ぶ
繰り返し繰りかえし くりかえす