洗面台から消えてゆく
043BLUE

ぼくは流れてゆく、洗面台から消えてゆく、洗面台の排水口から、少しづつ、消えてゆく、冷え切った蛇口と、無造作に放置された、石鹸の反目、ぼくの手は、今日も汚れてしまった、ぼくは石鹸で手を洗う、今日一日分の汚れを洗い流す、ぼくから引き剥がされた汚れによって、石鹸が不条理に汚れる、汚れてしまった石鹸を、ぼくの手が洗う、洗っているうちに、ぼくは手を洗っているのか、石鹸を洗っているのか、ますます、わからなくなってゆく、その間に、石鹸はぼくから分泌された穢れによって融解する、排水口の十字が、まるでその行方に宇宙が広がっているような、そのほんの入り口で、毛髪状のぼくの怨恨が、半年以上叫び続けている、冤罪にされた石鹸は、ぼく自身の手によって、消耗されてゆく、僕自身が汚れによって、同時多発的に、消耗されてゆくのと全く同じように、汚れを喪った僕は、まるで、僕自身を喪ったかのように、とても、うすい、とてもとてもうすいぼくは三葉虫の枕で眠りに着きながら、このまま朝になるまでに、冷たい布団の上で蒸発してしまいたいと、前頭葉で執拗に、執拗に反復する、だれにも気づかれずに、だれにもバレずに消えてゆきたい、この洗面台の、ブラックホールのような、すべてを許諾するこの排水口から、流出してゆく、僕自身を少しづつ、溶かしながら、毎日少しづつ、それはぼくが死人に近づくということ、それはぼくが、詩人に近づくということ、それはぼくがどうしようもなく、ぼくで在り続けるということ


自由詩 洗面台から消えてゆく Copyright 043BLUE 2005-03-03 01:14:11
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