からみかる
はて

はにかんだ朝日はすぐに色を変えて、ますます遠のいていくのだけど、
思い出すのはいつまでも遠ざかった後の明るさです。春はいつだって差
し込んできて、過去、常緑樹のようにそこから離れていかない。柔らかく
刺さり込んで抜けないささくれのように佇んで、私たちは見つめられる。
思い出すのはいつでも干された布団にたっぷりと染み込んだ匂いばかり
です。はにかんでいたあなたが通りすぎた冬に隣で体温と一緒に立てて
いた匂いはささやかに春を呼びそうな明るさを持っていた。過去。夜でも
灯りを落とした常緑樹は消えずに立っている。月のあかりを頼りにたばこ
の残りを数えて、一つ取り出す。煙は絡まりながらゆるく立ち上がり、消え
ていく。夜の三叉路はどの道もその先を知らせてはくれない。いつか手を
振って見送ったあなたの行先。風に焼かれていくたばこの穂先がジリジリ
と音を、毛細血管と同じくらいの微かさで指先に伝える。


自由詩 からみかる Copyright はて 2016-11-04 20:10:46
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