獣より
ゼロハチ

やっと音楽が聴けるようになりました

心が世界を取り戻しました


誰もいないと思っていた私は
いつも誰かの手に繋ぎ留められて生きていました


私を信じてくださって、本当にありがとう


落ちていくのはとても簡単でありました
気づけば夕闇の中でした

夜は明け
陽はのぼり

私はいつもの私だのに

いつの間にか

私は私でなくなっていました


美しいものがわからなくなり

心の中で泣き叫び
毒を飲まされたような顔で
生まれてきたのは何かの間違いだと思い始めていました

神様はなんといじわるなことだろうと

青く澄んだ空を睨んでいました



長い、長い時間がありました



今私は

私の中に私を認めました

できることは少なく、ひとつひとつ片づけるのです


私を誰よりも嫌いだったのは私で
私を誰よりも傷つけていたのは

私が一番に愛してあげたかった私でした



気づかせてくれたのは
お日様が眩しいと思い出させてくれたひと
お日様に似た、優しい人たちの声でした

風のにおいが変わったと思ったとき

寄り添い続けてくれたものに
私はようやくに気づくことができました。


私は暗い森を走り続けていました

でも同じとき

私がいつか倒れてしまわないよう
同じ森を一緒に走り続けてくれていた人たちがいました


この人たちは聞いていたことでしょう

私が独りぼっちだと叫びながら走っているのを
きっと張り裂けそうな心で聴いてくれていたのです


私は人に戻りました

獣のように生きることに必死でした

せめて死ぬ時までには戻りたいと思っていたけれど


音楽を美しいと思える今を生きることができている


悲しみは消えずに残り続けることでしょう
壊れてしまったものも完全には戻ることはないでしょう


でも神様というものがいらっしゃるのなら

私はあなたに負けませんと言い、
そしてありがとうと伝えます


悲しみを見つめることは本当に悲しいことでありました。

でも幸せがなんたるかを知りました。


獣だった私の目にだって
世界はそれはそれは光り輝いて見えていました


でもそんな眩い世界を


美しいと思うことができるかどうか


私がいても良い場所なのだと感じられるかどうか


私は人に戻った今

優しい世界で理解するのです


優しいあなた

いつか私が獣から人に戻る日が来ると


私を信じてくださって


本当に

ありがとう






自由詩 獣より Copyright ゼロハチ 2016-10-30 22:36:03
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