紙様
やまうちあつし

夏目漱石の「夢十夜」という小説の中に
鎌倉時代の仏師・運慶が甦り
護国寺の山門で仏像を彫り進める
というエピソードがある
見物人の一人が解説して言うことには
樹木にはあらかじめ仏像が内蔵されていて
彫刻家はそれを掘り出すだけなのだという
私はあるとき
詩も同じだということに気が付いた
この世のあらゆる紙という紙には
例外なく詩が内包されていて
詩人はそれを何かの機会に
がりがり削り出すだけなのだ
どんな原稿用紙にもノートにも
ちょっとしたメモ帳や反古紙にも
詩は隠されている
そこでわたしは想いを馳せる
素通りされこの世に現れ得なかった詩の数々に
そしてまた思う
書きたいものとか好みとかテーマとか
そんなものどうだっていいのだ
ただ目の前の紙を見据えて
秘められた詩を掘り起こすだけ
それが詩人に課された
この世の宿題
わたしはひとりの彫刻家
昨日売店で買ったボールペンを持つ
かみさま、


自由詩 紙様 Copyright やまうちあつし 2016-10-19 13:16:50
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