対話
梓ゆい

父のことを思い出すと
少しずつ少しずつ悲しくなる。
閉じたままの瞳/黙って外した酸素マスク
沢山話しかけても・きつく手を握っても
返事を一つも返さなくなったから。

父のことを思い出すと
少しずつ少しずつ腹が減る。
一緒に食べたすき焼きの
和牛もも肉の柔らかさを思い出すから。

父のことを思い出すと
少しずつ少しずつ楽しくなる。
手を繫いで歩いた日没前の遊歩道
長く伸びた影で
怪獣ごっこをしていたから。

父のことを思い出すと
父のことを思い出すと
私の横で名前を呼ぶ
在りし日の父の姿が見えてくる。




自由詩 対話 Copyright 梓ゆい 2016-10-06 15:25:19
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