破り忘れのワンシーン
葉月 祐

古い本のすき間から
ハラリと一枚の写真が落ちた

見なければ良かったと気付くのは
そこに写る二人の姿を見た後の事


笑顔で写る十年程前の私と  、の姿


繋いだ手を離した日から
棄てる事も出来ずに
本棚の隅に
隠す様に 忘れられる様に
保存していた時期もあった

ただただ 眩しかった、


結局は耐え切れずに
ある年の事
半ば衝動的に
その本棚をひっくり返して
残された褪せた思い出を
全て 全て
破り棄てた はずだった


あの日で時をとめた
褪色した過去は
一瞬でよみがえり
声の代わりに涙が出た

涙は拭かずに 私は
机の上に置かれていたマッチで
火の始末も考えずに
その最後の写真を燃やした


炎の中で幸せそうに笑うのはあの日の二人
それを見守るのは今の私

どんな顔してるかなんて
知りたくもない


写真の焼けた後に残る煙は
まるでこの心の底に残ったままの
燻りに染まった
後悔や懺悔の色に似ていた

分かってはいたけれど
逃げられないんだな、
自分にはそんな資格なんてないけれど
今だけは
誰かの前で ただ泣けたらと思った

過ぎた今を何度燃やしたって
あの瞬間の二人は消せやしない
それを分かっている上で
ひたすら声を殺した


心を破り棄てられたなら、
そんな馬鹿な願いを片手に







自由詩 破り忘れのワンシーン Copyright 葉月 祐 2016-09-18 22:57:36
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