まだ青い毬(いが)
葉月 祐

 
まだ青々とぎらつく
その実を守る毬(いが)は
時には熟し切らないまま
木から落ちてしまう

栗の木の側の小道を歩けば
それは突然 気配もなく
私の背中や頭めがけて
数メートル上から降ってくる

まさに狙われていたとしか
言いようのないタイミングで
栗の実をその中に抱えながら
私のどこかへと『着地』する

あの容赦無い痛みを
なんと例えたらいいものか
「痛い!」なんて
一言で表せるような
そんなかわいい痛みではない

離れたところから
そんな私の様子を目撃しては
母が大笑いするのも
この季節お決まりのワンシーン


もう少し時が流れると
その狂暴な若い毬(いが)の色は
茶色に染まり始めて

その毬(いが)の切れ間が
ゆっくりと開けば
大粒の雨がゆっくり降るように
秋の実りを一粒ずつ
その木の下に落としていく

夜も休む事なく落ちるので
カツン コツン と
その音は一日中 聞こえてくるのだ


栗の雨の音が止む頃
私と母はその木の下に潜り込む
あのふっくら艶々とした
丸い栗の実を探し 拾い集めては
「楽しいねえ」と言いながら

時折降る毬(いが)の痛みすら
気にせずに笑いあい
拾った栗の数を競い合う
はしゃぐ大きな子供二人の姿

そんな未来が今から目に浮かぶ

あの幼いやりとりを
近所の人達もこっそり見ては
楽しんでいるのだろう

拾いすぎる栗も
多分楽しみにしているから
今年も頑張らなければと
実も熟さぬ内から
気合いが入っている


若葉の色にも似た
生命力に溢れる自然の殻
君が口を開けるその日が
待ち遠しい








自由詩 まだ青い毬(いが) Copyright 葉月 祐 2016-09-13 13:15:35
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