闇と盃
ただのみきや

なみなみと注がれた盃に
映る
かつて訪れたもの
掴むことも消すこともできず

ゆらり ゆらして
とけることもかけることもない

見つめれば朧
目を閉じればありありと

油絵の月のよう
決してなにも照らさず

さざめき立つ鏡から掬う
水は真砂のように

乾いた恋情の果てか
この手を下した夢の屍か

ひとすじの意志が天から貫いて
串刺しの生きた標本のように影だけが震えた

夜の孤独は騒がしく
枝葉は休まることを知らず

なみなみと注がれた盃に
溺れ
過去から見上げた顔
遠く花びらのように意識は去り

嵐の後に最初に目覚めたもの
声もなく目もなく見つめるもの

瓜を割く
あおくさいわたをぬく
湿度が生き物みたいに纏わりつく

朝よりも白く蛾は震えた
生死は入り混じり汗ばんで
嗤う顔
なみなみと注がれた盃に

意図もなく匂う
しゃれこうべ百合のよう
そっと紐をほどき

覆された盃よ
何処で眠るのか――
目を凝らさず闇は闇のまま





            《闇と盃:2016年8月17日》










自由詩 闇と盃 Copyright ただのみきや 2016-08-17 21:03:55
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