THE COLD WAR
天才詩人

冷戦の冬。一級河川の、草の生えたサイクリングロード。顔のない少年だった僕は、真っ黒な制服を身につける、午後の。淡い光がこぼれる、窓。冬枯れの木立に囲まれる、L字形にゆがんだ路地の、埋め立てられた池のある公園で、野球をした。水溜りにグローブが落ち、長靴の足が、公園の敷地に近づく。ブロック塀に押しつけられる。頭を打つ。全身。金属。殴られる。僕は遠くにいきたい。遠くへ。とても 遠くへ。駄菓子屋の屋根に寝そべる少年たちが、夕焼けに染まる空を見上げているあの場所へ。1945年。ブロック塀が続く。苔が生えた路地の。貨物線路の照り返しが眩しい。透き通った空。青い。雲が浮いている。

記憶を白紙化された造成地の海。とカマボコ屋根の施設。はげ頭の肌色が指揮棒をふり、ぶん殴る。殴る。頭蓋を殴る。響く。殴られた。立ち尽くす。高潮する。肌。目が水ににじむ。笑っている。反響する。ドーム屋根。体育座り。ただ冷えきった膝のほくろを数えていた。非常口の緑。色の出口の。走って逃げる。記憶が身体のモーションを追いかける。1945年。海。人の海。人々の海。そうして僕は顔を焼かれ、目が見えなくなる。体育館の奥の、横棒で切断する、包帯の巻かれた身体。そこには資料がいくつも整理されている。指でたどる。紛糾する。ぽっかり。浮かん。だ青に白。この国にはもう誰もいない。豚や鶏のように屠殺され、ばらまかれた身体。ただ孤独にある。一人でありたい。みなそう願っている。だから散っていったし、散らされた。力の充隘した拳。振り下ろされる。跳ね、上がる。街。空の一筋の光。美しさ。静かな。

男は連れ込んだ。そして遮光カーテンの裏で切断した。臨海地帯を走る各駅停車線の、黒ずんだ庇の向こうの空。海の色に染まっている。ステンレス。I-podを交換する。アパチュアを変えたらコントラストは上がるの?何も知らない少女は水分を含んだ目で男の横顔をのぞきこむ。電車は踏み切りを超越(transcend)し、プラットフォームを外角化(externalization)する。スタジアムでは直球150キロの投手が、観客席のライトに照らされたグリーンの芝生で仁王立ちになったまま焦げる。そして鋼だけが残る。形はとどめている。僕は塗りたい。錆びているのはいやだ。これを。コレを。Koreを、赤や黄色のマグナペイントで塗りたくりたい。着色料で温存したい。そしてつややかな表面をいつも網膜の水分に浮かべて眺めたい。濃度を目いっぱい上げたい。そして囲まれた円のなかで、連れ込んで。自慰する。切断する。目を輝かせる。グラビアページを引き裂く。男。告白。草の生えたサイクリングロードにイル。ココ二イマス。

「最高ですか?僕らは希望を持っている。世界はもっとよくなるし、僕は最高度の喜びを。もっともっと音量をあげて」セットアップする。合唱する。骨をくっつける。食べる。骨はそこらじゅうにある。骨ということ。僕は骨のことを忘れた旧友たちを憎んだ。いまとりだす。隠している。カバンに持っている。とりだす。 とりだせ。骨を撃つ。骨で撃ちまくる。骨で乱射する。銀行をスーパーを、印鑑を忘れた郵便局の、保険のセールスレディを、電気店に買い物に来たゲーム好き の痩せたロン毛のパーマの、静かな、携帯のiサインだけが点滅する造成地に住んでいる少年を。撃て。刺せ。刺せ。刺身。刺身になれ。女の体も。男の体も。 体も。も。刺身でぐちゃぐちゃに刺せ。刺身。身を刺身に刺され刺しこめ。それから、ぜんぶ郵送しろ。郵送シロ。白い箱に入って帰ってきた骨。骨。遺族。崩れる。崩れ落ちる、打ち下ろされる、水平線のすりきりに焦点を合わせた8月の海。定規で引かれた破線を切る。白い箱は南の埠頭から還流してきたのだとラベルが。黒く焦げている、1945年。光り輝く真空管が6畳の部屋を囲んでいた。雑誌、新聞、カットアップ。スキミングされ、透明なフラスコで蒸留されていく身体。たち。見る。僕は見ているし、見・つづけていた。

喉の夏。外に出たい。いくつもの蝿がたかる腕がベランダに縛り付けられる。
叫んでいる。遮光カーテンの午後は後ろ手に鈍器を隠している。
そうして首都まで旗をたてて行進する。規則正しいリズムで
しがみついていたい。離れたくない。涙をぬぐう。
遅くならないうちにあなたを空から落としたのよ。
母は言う。
大丈夫、あなたならきっとどうするかわかるはず。

(この高校ならまったく問題ありません。このまま行けば受かります)
(お味噌汁、お塩いれすぎちゃったから飲まなくていいわよ)

お母さんがいなくても、母さんがいなくても、いなくても….
手の平を太陽に透かしてみれば、
真っ赤に流れる。流れ。熟れていく。熟れて。

6畳のつややかな畳。たた。み。
ステロイド剤が塗る。死ぬる。だから合成洗剤でこすっても
こんなにつやつやしている。畳、日本の畳。
また目が見えなくなる。そしていくつもの身体が街で汚物を噴射する、
ぶちまける。ことを告白する衝動が街を熱線で押し曲げる。透過された骨。

参考資料。インスティテューション (institution=(英)、施設、設備、強制化、矯正化、kyosei)。金属。歯、切り取られた胃。広島に建てろ。建てて建てて建てまくれ。ヒロシマ、HIROSHIMAの。夏。カマボコ型の建物を建てろ。観察し観察する。R・E・R・F。身体、影響、国際関系。骨の髄まで熱線でインプリントする。そして提出する。分析する。納得させる。電気のこぎりを発動させる。そうして体は標本になる。レントゲン放射線研究所。わたしたちは、平和を、二度と 戦争のない世界を、じんるいがみんな仲良く暮らしてい, Jinruiガナカヨククラ・・・Please record your message after the beep・・・居間でご飯茶碗がぶつかる音がする。箸でごはん粒をくっつける。腕。半袖の腕。まくった腕が風鈴と、割烹を着た母と、扇風機がしずかな風を送っていた8月の昼と。カキ氷屋の前で子供を負ぶっていた、ランニングシャツの男の姿と、振り返った老婆の顔にきざまれたしわの。ひとつひとつ。スクリーニングしろ、スキャンしてカット・アップして分析しろ。僕は熱線で雷木のようにいく筋もの分岐となって空に。割れる。ゆっくりと温度をあげる。静謐する。 公園の。埋め立てられた池の、熱くなったコンクリートには小さな腕が佇んでいる。




自由詩 THE COLD WAR Copyright 天才詩人 2016-07-16 03:28:51
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