手の内と山登り
しょだまさし
友人に登山にでも行ったらと
提案されて誘ったら
「別にいいよ」と気のない返事
付き合って数年も過ぎると
恋人関係はこんな風に
覇気のないものになるのだ
それでも歩いてみれば
要所要所で彼は自然に
私の手を取り助けてくれる
久しぶりにデート気分を味わい
下山し始めると霧が出た
用を足すからと
彼は私を待たせて三叉路の
細い方の道を降りた
再び二人で本道へ戻り
行きと同じ岩場で
彼はまた手を引いてくれた
その時冷たい感触があった
そこからしばらく
握られたままの手の内に
意識が集中する
どうもそれは金属性の
輪の形をしたものの様なのだ