欠片
さち



瑞々しい感情など
とうの昔に失くしたと思っていた

ワイシャツの襟汚れに
靴下の泥汚れに
石鹸を塗りつけ
揉み洗いをする手

夕飯の買出しに行っては
20円の値引きに目が留まり
今晩のおかずの
変更を考えている自分

薄桃色の気分など
縁のないもののように思っていた


レンタルビデオの
ラブストーリーの
彼と彼女の気持ちがフッと重なる場面を見たとき
思いもよらず キュンッとして
何度も何度も巻き戻してみる
そのキュンッは
私の心のどの辺にあるのか確かめようと


薄桃色の欠片は
私の中のどこかに
まだあるのかもしれないと


自由詩 欠片 Copyright さち 2005-02-26 18:52:14
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