苦悩しながら
天野茂典


   牛乳を飲む
   ジェームス・ディーンのように
   世の中は甘くない
   だから牛乳を飲む
   アメリカのようなボトルの牛乳はないが
   紙パックの牛乳でたくさんだ
   牛乳には神戸の味がする
   北海道でなく神戸だ
   神戸牛のステーキだ
   大分県の別府から神戸まで
   カーフェリーにのったことがあった
   小豆島に立ち寄ったとき
   そのころ全盛だったピンク・レディーの
   ミーちゃんとケイーちゃんにあった
   ふつうの女の子だった
   ことさら美しいとか
   華やかということもない
   娘たちだった
   神戸までカーフェリーに乗っていったのだろう
   ピンク・レディが好きになった
   ぼくは神戸で
   新幹線の切符を失くした
   慌てふためいたが新神戸駅で買い換えた
   神戸牛のステーキの味わいも
   三宮界隈のにぎやかさも
   横浜とは違ったシックな街中がよかった
   甲子園球場では高校野球を見た
   ストリップにいったら
   友達の親父とぱったり会った
   神官である
   神戸は4回ほど行っている
   牛乳を飲みながらなぜ
   神戸を思い出したのかはっきりしない
   東京にいながらぼくが阪神タイガースファンであることも
   若いジェームス・ディーンのように
   苦悩しながら
   泣いたような目で
   ボトルで牛乳を飲むかれは
   冷蔵庫から紙パックをだすまで
   忘れていた
   地球の自転に間に合うように
   牛乳は飲むものなのだ



                  2005・02・26


自由詩 苦悩しながら Copyright 天野茂典 2005-02-26 17:37:56
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