祝祭
kaz.

・祝祭

白い犬がいる。犬は座ったままじっとぼくを見ている。静かな観察だ。
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ぼくはそれを打ち間違える。そっと立ち上がって、と書かれる。静かな観察は静かな祝祭に変わる。
(白い犬がいる。そっと立ち上がって、静かな祝祭だ。)

犬は歩いていく。どこまでも遠くへ続いている川沿いの道を。静かな祝祭がその道の彼方で行われる。ぼくはそっと立ち上がって、それを絵にしてみる。
(祝祭ではない。祝祭というよりは、坂本龍一だろう。彼の名前を口にしたのは、ぼくが初めてデイケアに行ったときのことだ。好きな音楽は坂本龍一です、とぼくは言った。皆も同じように自分の名前と好きな音楽を紹介したが、その中に坂本龍一の名前はなかった。)

そっと立ち上がって、描いた絵をぐちゃぐちゃに破り捨てる。犬は白い。道も白い。何も描かれてはいない。祝祭という言葉がもつ輝きのイメージが投影されているのだ。
(デイケアで知り合った宮武さんという人が、「太陽」と「ビフラット」と「ダイナマイト」という言葉をよく口にする。この「祝祭」という言葉を、それらに置き換えてもらっても構わない。「ビフラット」については、意味を聞いたが本人は「整備士」というだけでその説明もよくわからない。ぼくの中では、「ビフラット」は「ビブラート」に変換され記憶されている。)

ぼくはそう言って立ち上がる。川沿いの道を後にする。
(宮武さんと接するうちに、ぼくも宮武さんと同じように喋れるようになってきた。ダイナマイト、タンヤオドラゴンボール、アランドロン、ビフラット、太陽。宮武語の難解さは尋常ではない。それでも話しているうちに、だんだんどういう場面で何を使えばいいかがわかってきたのだ。例えば白い犬と言いたいときには、ダイナマイト、ダイナマイト、太陽、ビフラットと言えばいい。)



・目覚め・死・太陽

月明かりが日蝕からはじまる頃に
我々は目覚めた、あるものの死の
鐘の音によって
赤色の時が過ぎ行くとき
我々は目を背ける、そのまぶしい日の丸から

目覚めは新しい覚醒だ
光の届かないぐらいの距離を
お前はそっと行く、立ち上がって
そして万物は死に値するだけの
ものをもっているのかと自問する、

ストラヴィンスキーをお前は聞く
それがお前の唯一の慰めだ
お前の魂は魂なきものを愛撫する、
物質と記憶の平行線の彼方へ

車が遠ざかっていく、
子供の声が聞こえる、囁くような小さな声が
窓ガラスを粉々に割り砕くとき
我々はきっと死者として立ち上がる



・愛、ファンタジア

愛、ファンタジアという短編を書いている。アシア・ジェバールの小説とは違う、そんな愛とファンタジーの世界。そんなものが存在するのかどうか、存在したとして果たして意味があるのかどうか、そんなことはどうだっていい。今はとにかくこの短編を終えることに専念しよう。よろしい、はじめに地球があり、海が、川が、陸地が、山があった。ここから先は危険だ、引き返そう。山を、陸地を、川を、海を、遡った。地球、そこにたどり着いた。彼の目には地球が映っていた。我々は宇宙にいた。宇宙は徐々に冷却に向かう。我々の目は凍り付いた。我々の目は宇宙において一つの点となった。そこから、海が、川が、陸地が、山が生成した。目の中に、生成したそれらが流れ込んだ、山が、陸地が、川が、海が、消え去った。爬虫類が現れては消え、一匹の猿の姿が網膜に残った。よろしいかな、問題はそこからだ。存在は連鎖する。存在するものは連鎖する。目はすべてを吸収した。冷却に向かった宇宙を、地球を。目は一つの地球となって、世界を見渡した。ここで言われているのは新たな宇宙の軸だ。さあ、ここからはじまるのだ。ぼくたちの永遠の歴史が。そう言われると君はぽかーんとする。よろしい、世界はぽかーんとした状態からはじまったのだ。およそ宇宙の生成という観念じたい矛盾を含むものであったのだ、ということが発見された。学者たちはここでまたぽかーんとした。ええい、ぽかーんとしてしまえ、すべてよ、ええいぽかーんええいぽかーんえぽかーえぽけーエポケー、こうしてすべてはエポケー(判断停止)に陥った。学者たちはまた目の捜索をはじめた。また、と言ったのは、これは以前にもあったことだからだ。以前にもあったことが永劫回帰してまた起こるのだ。こうしてすべてはもう一度捜索され、目が、肉眼が発見された、しかしこの肉眼においては何一つ見る能力がなかった。すべては現れであってそれ以上とはならなかったのだ。ここで少し休憩しよう、読み手の理解が追い付かない。いいや、正確には書き手ですら何を喋っているのかわからないのだ。

朝日立ち上る頃に
ぼくらの理解は限界に達する
(ここで「理解」を「理性」に置き換えても構わない)
ぐらぐら、沸点に達したぼくたちの理解は
蒸発する、
朝日の現れとともに!



・そしてまた、祝祭

頼りなさげな肩を
叩くぼくの心の扉は
開きっぱなしで
ひっきりなしに目が覚めて

/一つ、二つ、三つ、星を数えるうちに、いつの間にか宇宙の歴史について考えていた、宇宙はぼくから何一つ意図的なものを取り去る、何一つとして意図的なものをぼくに残さない、

//ケープタウンについたとき、ぼくは一挺の銃をもっていた。今ではそれがどこだったのかもはっきりと思い出せないが、確かにケープタウンは存在した、

(ケープタウン? どこだ、どこだ、そうだググって見よう、のっそり、No Sorry)

///悲しみは宇宙へと消え去った、今やぼくは世界を見渡せることを楽しんでいる、おお、グーグル、Google、星を数えよ、すべての運動体の波動を監視するため、

////のっそり、ぼくは出現する、湿地帯から、カスケード、ガスケー土、ぼくは永遠のガラパゴスケータイ族、

/////ウヒョヒョヒョヒョ、アッハッハッハ、ハッピーバースデー、ハッピー、ニューイヤー、さあすべてのものよ終われよ、追われよ、裂けよ、星屑となれ、輝け、届け、その終わりなき美しさよ、届け、そして消え去れ、祝祭日だ、今日は、鳥は空を飛ぶ、そのことでさえ奇跡、

/そして/そして/それでも
 鳥は空を飛ぶ、
       飛ぶ、
   飛ぶ、
        飛ぶ、
 飛ぶ、
         飛ぶ、
飛ぶ!

下るな、下がるな、魔性の月よ、日蝕を起こすな、魔性の太陽であれ、

/海が、川が、陸地が、山が、さらばを告げる、サラバガニ、タラバガニ、宇宙の収縮、Goodbye!!

//サルモネラ菌の繁殖を抑えられない、猿も寝りゃ、猿も、寝りゃ、いいんだ/そんなことはわかっていたさ、わかっていたさ、わかさ、若さ、美、若さは活力だ、

月よ/太陽を食らえ、食らいつくせ/暗い、尽くせ、暗い尽くせ/闇の中で駆けずり回る俺たち、闇から抜け出るために駆けずり回る俺たち、ビブラートの意味を知らない俺たち、祝祭の意味を知らない俺たち、死者として立ち上がる俺たち、///沢山の俺たちを抑えきれない俺たち、俺、たち、オーレ、チーター、速い、稲妻よりも速く、神の目玉よりも速く回転する、



・最後に、太陽

じゃ。またね。種まき。種が手からこぼれ落ちていく。これはさよならの合図だ。Goodbye。Dogbye。犬。白い犬。Oは飛んで、消えてしまった。

 おはよう。おー、早よう。Oh。早よう。酔う。太陽。ビフラット。種まきを宮武語で言うと、そうなる。種まき。太陽。ビフラット。

  おやすみ。親は隅の方へ行きました。眠りました。夢を見ました。体が動かなくなる夢でした。縛られて身動きが取れなくて、大変でした。そのままどこかへと運ばれていくのです。Oh。どこへ行ったんだ? Oよ。Oもどこかへと運ばれていきます。

   Oはどこへ行くのでしょう。Oに聞いてみます。もしもし、あなたどこへ行くか知ってる? 知らない。太陽とビフラットの境界線に沿った並行的な道のりを行くんです。その先には死が待っています。でも怖くはありません。自殺しようとしてがんじがらめに縛られるよりマシです。あれは本当に怖かった。これは自殺ではないんです。深い安息の道のりなんです。

    Oよ、Oよどこへ、ここだよ。ここ。


自由詩 祝祭 Copyright kaz. 2016-06-09 05:41:54
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