透明赤シート
kaz.

赤の世界。
掌、日焼けの少ない白い太股は、車の赤ランプを浴びている。黄色い布は暖かそうな、かつ目を閉じたくなるような眩しいオレンジに変わった。だが、青いトランクスだけは毒々しい紫に包まれて、すっかり萎えた。己の細い腕さえ、不気味に赤く光り、その緻密な配列の体毛と調和し、生気さえ感じない。
眼鏡と赤いシートの向こうに見える、あの娘の白い肌も、まるでこちらに来るなと言わんばかりの赤信号で、チカチカとして警戒心の塊で、僕は怖い。代弁するかのように木々は真夏の風で揺れ、見上げれば黒の葉、煉瓦の色の枝、ピンクの空、そして赤の雲。血の海に浸ったのだとすれば、あれは誰の血であろうか。
あの時、僕は染まった。あなたの、どんな光よりも赤く、そして消えない、あなたの輝きに。街のどこかにあると信じて、錯乱の中で、探していた。僕とを繋ぐ赤い糸の存在は、きっとどこかにあったはずなのだと。もしあなたが赤いシート越しに僕を見ていたり、色眼鏡であったり、血の涙を流していたら気付かなかったに違いないだろうが、糸はきっとあると信じて探している。
それなのに…。あなたは、どこにいるのだろう。ハンカチで涙を拭うと、赤く滲んでいた。しかし、すぐに視界が赤く染まり、気付いた。僕の目は、赤が見えないのであった。赤い糸など、その視界に広がる血の海の深くに溶け込んで、見つけられるはずもなかった。今、僕は手探りで糸に触れようとするのだけど、その糸さえも僕の強張った手は触れることができない。気が付けば、ついこの前はその糸を探るだけであったのに、今では糸が切れても構わないから触れてみたい、そんな投げやり気持ちになっているのであった。これだけでも恐ろしいことなのに、追い討ちをかけるように涙は溢れ、もはや血の海の底に沈んだようで、僕にはあなたが見えない。あなたは、赤過ぎる。
きっと、あなたは僕をいつも見ていた。糸を探して必死な様を。しかし、あなたの赤にあれほど染まったというのに、あなたは僕に手を差し延べてはくれないところを見ると、あなたには僕が見えていないのだろう。ちょうど、赤と赤が混じって違う色を成さないように。
色という色の世界は意識されずに死に絶え、基の色は一つの色に支配される。あの空のように。僕はあなたの赤に染まり過ぎてしまった。そして、赤いシート越しに、表情さえ赤に紛れてわからない赤を、探していたのだった。


ああ、目が疲れた。


僕は、乱反射する陽光を赤いシートが捕らえて、身体に赤い光が刺さるのを、静かに見ていた。
この身を焼いてしまえ。
消えてしまったあなたとは対照的に、自ずと消え失せたい、そんな淡い恋の光、であった。


自由詩 透明赤シート Copyright kaz. 2016-05-28 12:28:19
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