水無月
あおい満月

出口のない迷路を、
指でなぞっていく。
なぞるほどに指は増えて、
鉛のかたまりになる。
そんな道を、
幾度辿っただろうか。
いつも行き止まりがあった。
越えようとするほどに、
高くなる行き止まり。
よじ登る爪の皮は剥けて、
6月の雨になって、
無情にも地をめがけて流れていく。

*

街のなかに佇む、
ゴミ箱を探しては、
見つけて、
中を漁る。
出てくるものは、
生活の余韻をまとわりつけた、
生きた死に顔ばかり。
かくいうこの右手も、
その一部かもしれないのに、
優劣をはかる余裕さえないまま、
私は街じゅうを漁る。
誰かが林檎の芯をくわえて嗤う。
そこには、私の失われた皮膚がある。

**

生まれてくるものと、
これから失われていくものとが、
混在した身体をかじりながら、
あるいている。
生まれてくるものと、
失われていくもの。
どうしたって、
失われていくもののほうが多いのに、
私はなりたての母親になって、
生まれてくる、
失われていくものを愛でる。
失われていくものが成長して、
私の頭にかじりつく。
私は過去に食い荒らされる。

花が落ちている。
花を掬い上げても、
手のひらに溶けていく。
手のひらと花の間に映るものは、
刹那に過ぎていった、
おびただしいほどの足跡。


自由詩 水無月 Copyright あおい満月 2016-05-26 22:19:31
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