海は快感だった
天野茂典

   

   押し出されてゆく
   押し出されてゆく
   波打ち際を
   海へ
   風が背中を押す
   バルチック海ではない
   鎌倉の海でだ
   実朝が幻の建造船を作ったといわれる
   海の中へだ
   ぼくは懸命にこらえる
   ぼくは鎌倉時代にワープしたわけではない
   冬の海に魅せられただけだ
   鎌倉から海外へ
   遠浅の海から出港できなかった
   実朝の落胆
   海が誘う
   海がぼくをよんでいる
   
   ぼくは靴を濡らしながら
   押してくる風の強さに
   波打ち際で踏ん張っていた

   ほうずきでもあったら
   海に投げ込んだだろうに
   ぼくは海の人間ではない

   風は寒かった
   ぼくの心も寒かった
   焚き火でもしていたかった


   うみのうねりがちょうどぼくの
   バイオリズムだったことを知る
   海は快感だった



            2005・02・25    


未詩・独白 海は快感だった Copyright 天野茂典 2005-02-25 04:39:49
notebook Home 戻る