美和子の憂鬱
佐久間 肇
こんなに月がきれいな夜に
わたしはオオカミ
人を殺した。
*
すれ違いざまに去っていくので
背中に向けてぶつけた、
言葉、と
言葉の。
その間のお話。
***
こうして夜は更けていくのです
なんのためらいもなく
成熟して
― 熟れたら次は売れるだけ? ―
*
左様、左様にするのです
人を引っ掻くというのは、
甘美なまじないごとですよのう。
***
雪は降り続き、
オオカミのわたしは
臭いを封じ込めることで精一杯。
*
こんなに月がきれいな夜なのに
かり染め一つも味方にできず、
夜毎のお遊びは
現の地定点として、
***
背中にぶつけられた言葉が反射する
照り返しに気づかないほど、
わたし、逆毛立ってはいないわ。
あなたの背中は広い
だから、
なんでもかんでもぶつかってしまう
*
崩れかけるように
果実を押すので、
ぷしゅっと汁が
あなたの顔を汚す。
甘いかしら?
ああまいかしらん?
***
こんなに月のきれいな夜だったのに、
ほどよく冷めたプールに身を浸す。
わたしはオオカミ
夜毎に人を殺す