まものみち
あおい満月
風が流れてこないから、
行き先がわからなくて、
佇んでしまう。
私にとって呼ぶ声そのものが、
道標だ。
声を含んだ風が流れてこない日は、
この指を切って赤い唾を流す。
赤い汁のなかには小さな、
海があって、
その海のなかのことばを探す。
海は音もなく白い壁に滴る。
白い壁をみつめていると、
どこからともなく声が聴こえる。
その声のする方へ、
ことばを探すために祈ると、
壁に一斉に文字があらわれる。
文字は不順列に、
花になりびっちりと生えている。
私はその文字の花をつかって、
ことばをつくりだす。
掴んだ花は刺のなかにあった。
痛みよりも先に、
手のひらが血で真っ赤に染まる。
血で染まった手のひらから、
声が聴こえてきて、
手のひらは文字だらけになる。
文字が黒い虫になり、
私は払いのけようとするが、
文字の虫は毛孔から次々と這い出し、
私を埋めていく。
白い壁だけが大地になって、
静まりかえる。
*
(その手は魔物にとりつかれている)
誰かにそんなことを言われた。
私はうれしくてほくそ笑む。
魔物の足跡で囲まれたこの部屋には、
魔物を誘き寄せる白い壁がある。
今でも白い壁は、
ぐつぐつと魔物を生み出す瞬間を
狙っている。