馬鹿
印あかり

愛したのは
哀しい目でした

わたしより弱いひとしか愛せませんでした

あなたはいつも俯瞰していました
わたしのことも俯瞰していました

わたしの浅ましさ
こころの醜さ

あなたはいつも俯瞰していました



愛したのは
哀しい目でした

雲の隙間を目指すような愛でした

ひときわ大きな亀裂が入れば
言葉の泉も罅割れました

そこから漏れだす
一縷の光

光は蒸発し、そして降り注ぎました



愛したのは
哀しい目でした

あなたは鼓膜を必要としませんでした

わたしは一縷の光のそのむこうに
幸せの鐘の音まで期待しました

わたしは浅ましく
こころ醜く

あなたの闇をなぎはらって進みました



愛したのは
哀しい目でした

わたしより弱いひとなどいませんでした

わたしはやがて俯瞰しました
時間の塊を幾つも積みあげました

あなたはもう
届かないところへ

わたしが経た時間さえあなたは俯瞰していました



わたしの浅ましさ
こころの醜さ

あなたは許してそばに置いてくれていたの


自由詩 馬鹿 Copyright 印あかり 2016-05-12 08:16:14
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