風呂上り。
梓ゆい
しゃこっ。しゃこっ。と響くスポンジの音。
100数えてから出るんだよ。と
身体を洗いながら父が話しかけた。
「1・2・3・4・5!!」
熱を帯びて赤く染まる肌が
少しずつ汗を滴らせる。
途中上半身を出して空気に当たる瞬間は
湯気が立ち上る浴室でも
かすかな風を感じるほど敏感になっているのだ。
私と妹は意地になって
再び浴室の中で元気よく数を数え始める。
頭を洗い
父が入った瞬間からは
風呂釜の中も楽しい遊び場に早変わり。
4人の声が大きく響く浴室の中
出窓から出てゆく湯気が
夜空の星に食べられているかのようにも見えた。
「96.97.98.99.100・・・・!!!」
風呂から上がる妹二人の水しぶきが
電球の太陽にきらっと反射をして
ゆったりと湯につかる私は思わず
水の抵抗を受けて沈みそうになる。
慌てないでゆっくりと出なさい。
父の腕に支えられ
嵐に呑まれた小船のように
小さな身体を湯船に沈めた。