田植えの季節。
梓ゆい

都心へと続く田んぼの中の線路。
田植えを終えて一息つきながら
父がおにぎりを頬張った。

梅・おかか・こんぶ。

母が麦茶と重箱を差し出しながら
にっこりと笑っている。

汗を拭いて腰を曲げながら
苗の中に身体を沈めると
私の小さな身体がより小さく見えるのだ。

「いただきます」の一言が
神様への貢物にも見える。
一粒残しただけで
厳しくとがめた母の気持ちが
私の顔を濡らす額の汗と重なった。

列車の汽笛が遠くにこだまして
それがいつしか森のざわめきになる。

父が立ち上がり遠くの鳥居を見ながら
今年も豊作をよろしくお願いいたします。と言ったので
一口分のおにぎりを食べながら
私もよろしくお願いいたします。と
手を合わせた。

さわさわと揺れる苗の深緑。
少し大きくなった入道雲の影。
母のひざの上では
二人の妹が寝息を立てている。


自由詩 田植えの季節。 Copyright 梓ゆい 2016-05-10 00:32:09
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