田植えの季節。
梓ゆい
都心へと続く田んぼの中の線路。
田植えを終えて一息つきながら
父がおにぎりを頬張った。
梅・おかか・こんぶ。
母が麦茶と重箱を差し出しながら
にっこりと笑っている。
汗を拭いて腰を曲げながら
苗の中に身体を沈めると
私の小さな身体がより小さく見えるのだ。
「いただきます」の一言が
神様への貢物にも見える。
一粒残しただけで
厳しくとがめた母の気持ちが
私の顔を濡らす額の汗と重なった。
列車の汽笛が遠くにこだまして
それがいつしか森のざわめきになる。
父が立ち上がり遠くの鳥居を見ながら
今年も豊作をよろしくお願いいたします。と言ったので
一口分のおにぎりを食べながら
私もよろしくお願いいたします。と
手を合わせた。
さわさわと揺れる苗の深緑。
少し大きくなった入道雲の影。
母のひざの上では
二人の妹が寝息を立てている。