スローカーヴを描いて
崎山郁



私は人の顔が覚えられないんだ

そう君が言った

昨日もずっと一緒にいて
仕事でも部署は違うけど
3年間顔を合わせていたよね

だけど、あなたを思い出す時
最初に出てくるのは声なんだよ
顔はいつもなくて
首から下とかその日の洋服だとか
そんなのしかわからないんだよ

春の中で
君の顔は緩やかに瞬いている

笑い出す先から輝いていた
日の光を放って
虫たちが飛んでいた

川辺で踊っている
もう寧ろ
私たち、などという括りはやめて
透明な液体のままで
柔らかな身体を投げ出して
しまおうよ


あなたの顔を覚えていたい

そう君は言う

あなたがいなくても
何度でもここに辿り着けるように
あなたを覚えていたいの、
と君は泣く

君は言う
春の指先の中で




自由詩 スローカーヴを描いて Copyright 崎山郁 2016-05-07 22:08:27
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