黒い手
あおい満月

私は黒いものが好き。
私は暗いものが好き。
黒さには深い果てしなさがある。
黒い果てを降りていくと。
暗く真っ赤な川がある。
川には熱がある。
この熱からたくさんの物語が生まれる。
私もこの川から生まれたのだ。
闇のなかを流れる川。
闇を生きる川。

川の岸辺に、
一輪の花が咲いている。
花は闇を養分として、
真っ黒な赤さで光る。
花は唄をうたう。
花の声は黒い。
かなしみを呑み込んで。
人々の知らない皮膚の下で。
黒い産毛から滴る雨を枕にして。

黒いクレヨンを食べる。
黒いクレヨンで歯を塗りつぶす。
歯はなくなって黒い穴になる。
針穴に糸を通すように、
指から指へと白を抜いていきたい。
紙の上に黒を置く。
これだけで、世界はなんと美しいことか。
黒ほど力の強い引力はない。
黒ほど深い泉はない。
黒ほど、

私の腕を、黒い川が流れていく。
私は黒いものが好き。
私は暗いものが好き。

頭の上を、
黒い手が泳いでいる。



自由詩 黒い手 Copyright あおい満月 2016-05-01 00:40:12
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