遠く深いものたちへ
あおい満月

鳥は、
空を空と名づけない。
鳥たちにとって空こそが、
果てしない大地だから。
鳥たちは、
彼らは翔ぶことを意識しない。
彼らは空を駆けている。
全速力で、遠く、遠く。

魚は、
海が海であることを知っているのか。
魚は海を名づけない。
魚たちにとって海こそが、
何よりも深い大地だから。
魚たちは、
彼らは泳ぐことを意識しない。
彼らは海を抱いている。
あらんかぎりのぬくもりで、
深く、深く。

人は、
空を空と名づけ、
海を海と名づけ、
そして大地を大地と呼ぶ。
ことばとは、
人だけにゆるされた、
鍵のようなもの。
その鍵をつかい、
人々は何処へどこまで向かうのか。
ことばを持つ人々は、
鶏や魚や、
ことばを持たないものたちよりも、
本当はけして強くはない。
あろうことか自分を自分のことはで、
殺したりもする。
人とは脆く残酷ないきものだ。
ことばを持たないものたちの方が、
なんと自由で強いだろうか。

私は空を見上げて、
深く見つめてみる。

私のこんな小さな想いが、
あのものたちへ届く日は、
くるのだろうか。

遠く、深く、
深く、遠くへ。



自由詩 遠く深いものたちへ Copyright あおい満月 2016-04-28 22:23:43
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