心のかたち
あおい満月

石ころが、道の真ん中に落ちている。
いや、石ころは道の真ん中に立っているのだ。
彼には目も耳もなかった。
ただ、感覚だけが、
虫の触角のように鋭かった。
彼は大地の熱と風の愛撫を糧に生きている。
彼は自分の過去も未来も知らない。
風の声で今を悟る。
彼を乗せた大地は、
あたたかくも冷たくもなく、
体温のように一定だった。

ある日、一人の少年が、
石ころを拾って手に取った。
石ころには、耳が聞こえなかったが、
少年の手の温度と息づかいで、
また新たな旅ができると感じた。
少年は石ころをポケットにしまい、
家路を急いだ。

家に帰った少年は、
石ころをまじまじとみつめている。
不思議な石ころだ、と彼は思う。
石ころには熱があったから。
そして、彼は気がついたから。
石ころが心のかたちをしていることを。
彼は決めた。この石ころを、
大好きな少女に贈ろうと。

翌朝、少年は少女に石ころを渡した。
彼女はどこかあたたかい、
心のかたちをした石ころを喜んだ。
石ころも感じていた。
自分のからだが熱くなる感覚に。
石ころには鼻もないのに、
甘い花の香りを感じていた。

少女は石ころをペンダントにした。
少女の胸元で石ころは海の夢を見ている
石ころは自分の過去も未来も知らないが、
この名もない安らぎに、
確かな今を感じている。

少し前までは、
道の真ん中にいたはずなのに。




自由詩 心のかたち Copyright あおい満月 2016-04-24 15:35:00
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