至福の人
あおば



JR新宿駅東口
土曜日の今日も
空には白い鱗雲

駅の出口からは
紅衛兵みたいな
威勢の良い人たちが
ぞろぞろと急ぎ足

台風の翌日の川のように激流となり、
海のような繁華街に向かうのだ

大股で急ぎ足だから
ヒョコヒョコと鳥みたく
あるいはのしのしと
先祖の爬虫類の
二足歩行の恐竜のように
顎を突き出し
ダブダブの迷彩色の
パンツの中には
強靱な横紋筋が
少しも機能しない
余剰の空気をため込んで
ブカブカドンドン騒がしく
音のない映像だけが横切った

お約束の待ち時間の溜まり場に
餌を求めて群れるハト
立入禁止も知らん顔
真っ黒なアスファルトを光らせて
見えない豆を啄ばんで
掃除する人の心を虐げる

キタキツネの缶詰
目立ちがりやの
古だぬき
缶詰の中にフタをして
紅衛兵ども閉じこめた
紅い服着て街を行く
黄色い顔した女の子と
男の子

黄色の衣は綻びて
タクシーを呼んでも
停まらない
ケータイ電話に呼び鈴を
つけたらいいかもしれないと
紅衛兵は考える
赤いポストに
キタキツネの缶詰を
投げ込んで
年末の
集配業務のアルバイトに応募する

タクシーを
停めようとして刎ねられた
古ギツネの死骸を蹴っ飛ばし
掃除の人は嬉しそう
永久に
来ぬ人を待って居られたら
よいのだけれとと言いながら





作 2003年の秋





自由詩 至福の人 Copyright あおば 2005-02-24 01:34:20
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