砂時計
あおい満月

夜の瓦礫のなかを、
一列になって進むものたちがいる。
彼らは月の足音を合図に、
前へ前へと進む。
彼らには声や息づかいはない。
左右に振られる二本の目が、
彼らの骨であり、生きだ。
彼らの瓦礫を喰らう音だけは凄まじい。
瓦礫は喰われた部分だけが朝になる。
そう、
彼らは夜を喰らっている。

彼らには相手を意識する本能はあるが、
仲間意識はない。
だから他の仲間が倒れて死ぬと、
喪にも服さず死んだ仲間の身体を喰らう
彼らの敵である人間にさえ、
心はないのに、彼らに心などあるものか

彼らは日に日に肥えていく。
肥えすぎて脚を失うものもいる。
けれど彼らの夜の征服の旅は終わらない
朝が来ても彼らは背中で旅の攻略を立てる。
ひび割れた薄暗い硝子窓から、
薄日がさす。
薄日と一緒に、
なにやら煙のような霧が
入り込む。
彼らの二本の目が煙に触れた。
すると彼らは一斉に、
欠伸をするように眠り込む。

彼らは目を覚まさない。
彼らの身体は虹のように、
透明になり床に溶けていく。

跡形もなくなったリビングから、
心ない人間たちの、
酒池肉林な笑い声が響く。
消えた彼らは、
あの人間どもの脳内に巣くわなければ、
自分たちの勝利は得られない。
彼らは夜毎、
あの人間どもの鼻から、
脳内に忍び込む術を、
模索している。
月の足音を砂時計にして。




自由詩 砂時計 Copyright あおい満月 2016-04-20 20:39:46
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