白い月
石田とわ
あの日を境にわたしの中から
わたしがいなくなり
半透明な海月になった
荒ぶる海流に叩きつけられ
なす術もなく右へ左へ
痛みとともに流され続けた
海が静かになるとなぜか怯え
身の置き所のない不安にかられた
嵐の海に翻弄されているのが
海月になったじぶんには
似合いだと思っていた
このまま消えてしまえばいいと
遠い海面のさらに遠くに見える
月のひかりが眩しかった
そして恋しかった
心のどこかで戻らねばならぬと
白い月は教えてくれた
長い長い時間、海を彷徨った
あの時、涙を流しておけば
海月にならずにすんだのかもしれない
いまも海月のままなのか、
わたしに戻れたのか定かではないが
凪いだ日も穏やかに過ごせるようになった
白い月は今でも恋しく
見るたびにあのひとを思う