白い月
石田とわ

    あの日を境にわたしの中から
    わたしがいなくなり
    半透明な海月になった
    荒ぶる海流に叩きつけられ
    なす術もなく右へ左へ
    痛みとともに流され続けた
    海が静かになるとなぜか怯え
    身の置き所のない不安にかられた
    嵐の海に翻弄されているのが
    海月になったじぶんには
    似合いだと思っていた
    このまま消えてしまえばいいと
    遠い海面のさらに遠くに見える
    月のひかりが眩しかった
    そして恋しかった
    心のどこかで戻らねばならぬと
    白い月は教えてくれた
    長い長い時間、海を彷徨った
    あの時、涙を流しておけば
    海月にならずにすんだのかもしれない
    いまも海月のままなのか、
    わたしに戻れたのか定かではないが
    凪いだ日も穏やかに過ごせるようになった
    白い月は今でも恋しく
    見るたびにあのひとを思う
             
                   



   


自由詩 白い月 Copyright 石田とわ 2016-04-17 03:01:50
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